ミルを記録する。
by tsubasahappy
プロフィールを見る
画像一覧
更新通知を受け取る
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31
以前の記事
2015年 11月
2015年 06月
2015年 05月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 03月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 08月
2013年 05月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2006年 03月
2006年 02月
2006年 01月
2005年 12月
2005年 11月
2005年 10月
2005年 09月
2005年 08月
2005年 07月
2005年 06月
2005年 05月
フォロー中のブログ
鯨荘日記
カテゴリ
全体
パフォーミングアーツ

未分類
検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
日々の出来事
演劇
画像一覧

今日によせて。

あの日のこと、I don't forget じゃなく、I remember。
あの日は、本当は芝居を観に行く予定だったんだよなぁ、ということから、まずは思い出していた。
大阪市内にあるうちの事務所で仕事していたときに揺れを感じ、ネットで驚くような情報を見て、何十度目かにかけてつながった母との会話や、それからの数日間のこと。
テレビで見る映像や情報は、本当か嘘かわからない。本当のこともあるだろうけど、映さない・映せないことも多いだろうから。自分が友人から聞いた本当のことって、もっと壮絶だったし。
前を向かなきゃいけないのはわかってるけど、頑張ろうという言葉に疲れを感じた部分もある。結局、瓦礫も隣の芝生なら、好き勝手言えるけど、自分の家に来たらそうなんだよな。しょうがないか。




花の名/茨木のり子
「浜松はとても進歩的ですよ」
「と申しますと?」
「全裸になっちまうんです 浜松のストリップ そりゃ進歩的です」
 なるほどそういう使い方もあるわけか 進歩的!
 登山帽の男はひどく陽気だった
 千住に住む甥っ子が女と同棲しちまって
 しかたがないから結婚式を挙げてやりに行くという
「あなた先生ですか?」
「いいえ」
「じゃ絵描きさん?」
「いいえ
 以前 女探偵かって言われたこともあります
 やはり汽車のなかで」
「はっはっはっは」
 わたしは告別式の帰り
 父の骨を柳の箸でつまんできて
 はかなさが十一月の風のようです
 黙っていきたいのです
「今日は戦時中のように混みますね
 お花見どきだから あなた何年生まれ?
 へええ じゃ僕とおない年だ こりゃ愉快!
 ラバウルの生き残りですよ 僕 まったくひどいもんだった
 さらばラバウルよって唄 知ってる?
 いい唄だったなあ」
 かってのますらお・ますらめも
 だいぶくたびれたものだと
 お互い目を据える
 吉凶あいむかい賑やかに東海道をのぼるより
 しかたなさそうな
「娯楽のためにも殺気だつんだからな
 でもごらんなさい 桜の花がまっさかりだ
 海の色といいなぁ
 僕 色々花の名前を覚えたいと思ってンですよ
 あなた知りませんか? ううんとね
 大きな白い花がいちめんに咲いてて・・・・・」
「いい匂いがして 今ごろ咲く花?」
「そう そう」
「泰山木じゃないかしら?」
「ははァ 泰山木…僕長い間
 知りたがってたんだ どんな字を書くんです?
 なるほどメモしとこう」
 女のひとが花の名前を沢山知っているのなんか
 とてもいいものだよ 
 父の古い言葉がゆっくりよぎる
 物心ついてからどれほど怖れてきただろう
 死別の日を
 歳月はあなたとの別れの準備のために
 おおかた費やされてきたように思われる
 いい男だったわ お父さん
 娘が捧げる一輪の花
 生きているとき言いたくて
 言えなかった言葉です
 棺のまわりに誰も居なくなったとき
 私はそっと近づいて父の顔に頬をよせた
 氷ともちがう陶器ともちがう
 ふしぎなつめたさ
 菜の花のまんなかの火葬場から
 ビスケットを焼くような黒い煙がひとすじ昇る
 ふるさとの海べの町はへんに明るく
 すべてを童話にみせてしまう
 鱶に足を喰いちぎられたとか
 農機具に手を巻き込まれたとか
 耳に蚊が入って泣きわめくちび 交通事故
 自殺未遂 腸捻転 破傷風 麻薬泥棒
 田舎の外科医だったあなたは
 他人に襲いかかる死神を力まかせにぐいぐい
 のけぞらせ つきとばす
 昼も夜もない精悍な獅子でした
 まったく突然の
 少しも苦しみのない安らかな死は
 だから何者からのご褒美ではなかったかしら
「今日はお日柄もよろしく・・・仲人なんて
 照れるなあ あれ! 僕のモーニングの上に
 どんどん荷物が ま いいや しかし
 東京に住もうとは思わないなあ
 ありゃ人間の住むとこじゃない
 田舎じゃ誠意をもってつきあえば友達は
 ジャカスカ出来るしねえ 僕は材木屋です
 子供は三人 あなたは?」
 父の葬儀に鳥や獣はこなかったけれど
 花びら散りかかる小型の涅槃図
 白痴のすーやんがやってきて廻らぬ舌で
 かきくどく
 誰も相手にしないすーやんを
 父はやさしく診てあげた
 私の頬をしたたか濡らす熱い塩化ナトリウムのしたたり
 農夫 下駄屋 おもちゃ屋 八百屋
 漁師 うどんや 瓦屋 小使い
 好きだった名もないひとびとに囲まれて
 ひとすじの煙となった野辺のおくり
 棺を覆うて始めてわかる
 味噌くさくはなかったから上味噌であった仏教徒
 吉良町のチエホフよ
 さようなら
「旅は道ずれというけれど いやあお蔭さんで
 楽しかったな じゃ お達者でね」
 東京駅のプラットホームに登山帽がまったく
 紛れてしまったとき あ と叫ぶ
 あの人が指したのは辛夷(こぶし)の花ではなかったかしら
 そうだ泰山木は六月の花
 ああ なんといううわのそら
 娘の頃に父はしきりにそう言ったものだ
 「お前は馬鹿だ」
 「お前は抜けている」
 「お前は途方もない馬鹿だ」
 リバガアゼでも詰め込むようにせっせと
 世の中に出てみたら左程の馬鹿でもないことが
 かなりはっきりしたけれど
 あれは何を怖れていたのですか 父上よ
 それにしても今日はほんとに一寸 馬鹿

かの登山帽の戦中派
花の名前の誤りを
何時 何処で どんな顔して
気付いてくれることだろ
[PR]
by tsubasahappy | 2012-03-12 02:04